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『天盆』 [読書]

王城夕紀さんのデビュー作。
ドット絵のような盤面の表紙に惹かれて手に取りました。
ボードゲームやカードゲームや格闘ゲーム、
勝負ごとが題材の作品は世の中にたくさんあるけど、その中の上澄みのひとすくい。
囲碁ものや将棋ものの一番美味しいところを凝縮したような本だった。

天盆は将棋に似た架空(たぶん)のボードゲーム。
取った駒が使えて、盤の升目は縦12列×横12列。
作品の舞台は天盆の大会の勝者が統治者になる架空の小国、蓋の国。
主人公はその国に生きる庶民の大家族の末っ子で、名前は凡天。

凡天はごく幼いころから天盆に夢中で、天盆を愛して才能を伸ばしていく。
作中で成長してもまだたった10歳。
天盆しか見えないせいで時に周囲に迷惑を掛けてもぶれない、一心な生き様。
生き様という言葉が似合わないほど幼いけど、獅子の仔が育っていくのを見るのは楽しい。
自分は将棋に疎くて詳しいことはわからないけど、わくわくした。
知識のある人はもっと勝負の綾が理解できるのかな。
同じ道を目指す先輩がいて、師匠がいて、ライバルがいて、立ちはだかる者がいる。
定石があって、定石の通用しない場面があって、定石を越える瞬間がある。

凡天を見守る両親や兄弟たちのキャラが立っているのも楽しい。
この世界で天盆に勝つことは立身出世の手段、平民が取り立てられる唯一の方法なので、
勝負には血腥い事情も関わってくる。家族の生死にさえ影響する。
そもそも、天盆で為政者を決めるという国の仕組みがいかにも無理がありそうで、
もちろん体制を破綻させないために暗躍する人たちがいるのだが、凡天にそのつもりがなくても
勝ち続けようとすればやがてその旧体制に立ち向かう構図になってしまうのが面白い。
中華ファンタジーでもあり、庶民の大家族ものでもある。

盤上の戦いの流れと町の攻防がリンクする最終戦。
作中にちりばめられた言葉や伏線が集まって怒涛のように押し寄せるラスト。
架空の遊戯で政治が決まる架空の国は幻のように消えて、
情熱の余韻だけが残る結末でした。
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