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『ジェネラル・ルージュの凱旋』 [読書]

海堂尊さんの本は『極北クレイマー』をちらっと読んだことがあったくらいで、
そのときは医療と自治体の財政破綻を絡めて書いていることに興味をそそられたけど、
まともに読むのはこれが初めて。

たまたま医療の書架の前を通ったとき、海堂さんの著書
『ゴーゴーAi アカデミズム闘争4000日』が目に入って、
最初と最後をちょっとだけ読んで、Ai(オートプシー・イメージング/死亡時画像診断)の
普及のために奔走している人だと知って興味がわいたのがきっかけ。

『ジェネラル・ルージュの凱旋』は、救急医療の話。
赤字部門の救急医療現場で血みどろの戦いを続けている救命救急センター部長、
速水先生の悲願はドクター・ヘリの導入。
……なんだけど、直前に『ゴーゴーAi』をパラ見していたので、
この作品の主題は世間へのAiの啓蒙ではないかと思った。

しかし、そんな邪推がどうでもよくなるくらい面白かった。
救命救急医療の緊迫感。
大学付属病院という組織の中での派閥のバランス、噂話や主導権の奪い合い。
高階病院長と島津助教授による速水先生の人物評に海堂さんの切れ味を見た。

速水先生はカッコイイ、実力を伴ったカリスマだから仕方ない。
倫理問題審査会(エシックス・コミティ)の面々の前で啖呵を切るシーンは独壇場。
その上、現在の無理のあるやり方にいずれ限界が来て破綻するなら、
いっそ自分が――と考えるような、どこか不安定な部分も持っている。
看護師さんたちが心酔してファンになるのがわかる。
さらに最後には、自分を支えていてくれた彼女をさらっていくんやで。

神経内科の万年講師にしてリスクマネジメント委員会委員長、田口先生はいい人だー。
患者への対応や書類仕事の片付けぶりを見るとさりげなく有能だと思うんだけど、
そのまま愚痴外来でひっそりと咲いていてほしい。
愚痴外来の専任看護師、藤原看護師が好き。
定年後の再任用で各科の看護師長を歴任した海千山千のベテランなんて、理想のアシスタント。
白鳥さんが登場すると空気が変わる。

バイパスの多重事故からコンビナートの火災につながり、
大勢の負傷者が東城大学救命救急センターに運び込まれるくだりは、映画のようだった。
ページ数自体は短いのだけど、濃度がすごい。
張りつめた空気で、ものすごくテンションが高い。
「ここは戦場よ」の言葉どおり、前線の野戦病院のよう。
そろりと動く猫田師長、待機中の看護師、ベルとサイレンの遁走曲、ヘリポートに立つ速水先生。
映画版は見ていないのだけど、スクリーンを見ているように映像が浮かぶ。
猫田さんが部下のフタッフを叱咤激励するシーンが好き。

ラストはなるほど、これで『極北クレイマー』に繋がるわけですな。

読んでいてわからない部分もときどきあったけど、
シリーズものの3作目から読み始めているわけだから仕方ない。
作者は勤務医とのことだけど、救急医療の現状と病院経営、関係省庁など
病院を取り巻く環境が書かれていて、強い意志が伝わってきて面白かった。
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