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『アラビアの夜の種族』 1~3巻 [読書]

古川日出男作、『アラビアの夜の種族』。
著者が西暦2000年の夏、サウジアラビアのジェッダで出会った古書、
『The Arabian Nightbreeds』の邦訳版。

1798年、ナポレオン率いるフランス軍が間近に迫るカイロにて、
フランス軍の侵攻を防ぐための書物の形をした美しい罠、『災厄の書』の編纂が計画される。
聴き手と語り手―夜の種族(ナイトブリード)たちの前に紡がれるのは、希代の年代記。
それは蛇神と契約した醜悪な魔王と、魔術の才に恵まれた異端の孤児と、
正統な王の血を引く輝かしい剣士、3人の運命が交差する迷宮の物語。

こういう小説が読めてしあわせ。
史実と伝説、俗っぽい部分と厳かな部分が交差した、壮麗で卑俗な物語だった。
迷宮の描写は『Wizardry 狂王の試練場』リスペクト?とか、
『ひと夏の経験値―ファイナル・セーラー・クエスト』を思い出すものだったけど、
文庫版3冊を一気に読んでしまった。

以下の感想はネタバレしていますので、ご注意ください。
後から確認したら、後書きまで含めてフィクションなのね。かなり実在を信じたよ!
もちろん、作者がジェッダで『The Arabian Nightbreeds』と出会うくだりも。

たしかに、文章が日本以外の言語の言い回しじゃない感じはする。
ノリノリで自由自在な語り口は、海の向こうの言葉の翻訳では追いつかない気がする。
そして、人外の存在や迷宮の整合性が取れすぎてるというか、ゲームっ子には理解できすぎる。
土着の昔話ならではの理不尽さ、けむに巻かれちゃう感が少なくて、
世界の成り立ちがよくできていることがかえって引っ掛かる。
ベニー松山さんによると、この作品の壮大な仕掛けは古川さんのWizardryに対する
愛と情熱から生まれたものみたいなので、ゲームっぽくても全然問題ではないんだが。

フラットアースに近い匂いもする。
『千夜一夜物語』自体がこんな言葉運びなのか、読んでみたくなった。

それにしても魅力的なファンタジーだった。
スケールが大きくて、語り口がおおらかで、登場人物が魅力的。
語り手ズームルッドも魅惑的だし、聴き手のアイユーブがやがて物語の主になる構成もいい。
物語が積み上がり、自らの重みで崩落し、その上にまた積み上がるような物語、
作品の舞台である迷宮そのものみたいなお話だった。

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