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『さよなら妖精』 [読書]

夏の米澤穂信フェア。
『さよなら妖精』の最大の謎は、米澤さんがどうしてこの本を書いたか、だと思う。
ユーゴスラヴィアの解体と日常の謎とビルドゥングスロマンが交差して一つになっている
この本が、いったいどうしてできあがったのか不思議。

重い結末といえばそのとおりだけど、登場人物たちが無為な時を過ごしたとは思わない。
わたしも、普段はほとんど意識しないユーゴスラビアのことを、
多少なりとも知ることができて面白かったよ。知識が増えるのは楽しい。

作品の時代背景は1991年4月~1992年7月。
日常の謎のターンは、好奇心旺盛なマーヤが疑問を見つけて、
名探偵役の太刀洗万智がヒントを出して、探偵役の守屋が推理する、という流れがメイン。
役割分担が明確ですっきりと読みやすい。

故郷ユーゴスラヴィアに7つ目の文化を根付かせるという使命を自らに課して、
ひたむきに他国の文化を知ろうとするマーヤも、クールで怜悧な太刀洗さんも、
穏やかでおおらかな白河さんも、みんな友達想いだった。
万智が守屋に向ける視線には、
いまひとつ勘が鈍くて狭い世界の中でうだうだしている可愛い弟を見るような温度を感じる。
そんな太刀洗さんが感情を爆発させるシーンも好きだ。

ストーリー全体の見どころとしては、冷めた人生観だった少年が未知の世界にふれて熱を知り、
いきがった挙句ポッキリ折れるのを、残念な気持ちで生温かく見守るのが半分。
それでも彼はこの経験を糧にして、いつか何かを動かすだろうと予感させてくれるのが、もう半分。
まだ何者にでもなれる年頃っていいね。
平成3年に17~18歳だった守屋少年は、どんな大人になっただろう。

以下は、マーヤの出身地の手掛かりについて、読書中に目にとまった部分の落ち穂拾い。
ページ数は創元推理文庫の4版によっています。

p54 わたしの国なら、山が多いです
→クロアチア(フルヴァツカ)は長い海岸線を有しているので除外

p242 マケドニアに行ったとき
→マケドニアは除外

p142 わたしの父はスルビア人です。母はスロヴェニヤ人です。母の父はマケドニヤ人です。
p145 ただし、カトリックの作法は知っているつもりです
p212 表の「主要な宗教」にカトリックがあるのはスロヴェニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
→セルビア、モンテネグロ、マケドニアは除外

p120 観光という産業は気まぐれで柱とするに値しないと思いましたが、そうと言えないかもしれません
p211 スロベニアの説明文、前者は観光スポットに(中略)ブレッド湖というのが人気らしい
p215 観光ガイドをめくったが、モンテネグロにはページが割り当てられていなかった
→スロベニアはすでに観光が柱になっているというニュアンス、
逆にモンテネグロは観光以前の段階と読めるけど、これはちょっとこじつけっぽいかな。

p117 わたしの街は藤柴と似ていて、街の真ん中を川が一本流れています。
なので、橋もいろいろあります。でもユーゴスラヴィアで一番有名なのは Mostar モスタルの橋です。
p211~216 橋が出てくる国は、スロヴェニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア
→ google で Mostar の橋を調べてみた。
Mostar の橋=スタリ・モストがあるのは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ。

改めて読むと p211~216にかけて、表と本文で一部の国の順番が違っているんだな。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナとモンテネグロが入れ替わっている。
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