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「おれはミサイル」 [読書]

長い間、空で戦っている老朽化した全翼機が、ある日、自分の中に『声』を発見し、
声の正体であるミサイルと意思疎通し、ちょっとだけ相互理解して、さよならする話。
ずいぶん前に「SFマガジン」に掲載されていた秋山瑞人のSF短編小説で、
今月発売のハヤカワ文庫JA『ゼロ年代SF傑作選』に収録されています。
「おれはミサイル」を文庫化してくれてありがとう早川書房。
そして、「海原の用心棒」の文庫化はいつですか。

文体は、全翼機の一人称。
ミサイル母機の思考回路に触れられるというのは素敵だと思う。
門外漢を置いてきぼりにして滔々と溢れる専門用語がそれっぽくて楽しい。
SFマガジン2002年5月号の「前篇のあらすじ」には、全翼機搭載のAI=私と書いてあったけど、
「私」はAIじゃなくて全翼機そのものだよな。

秋山瑞人の小説は、異なる価値観を持つ者たちがコミュニケーションしようとしてぶつかったり
理解しあったりやっぱり分かりあえなかったりそれでも暖かいものが少し残ったりするところが
好きだと思っていたけど、これを読んで秋山作品において独立した存在が2体あれば、
必ず価値観の衝突があるのだとわかってしまった。
全翼型戦闘機とそこに搭載されたミサイルとでも価値観は違う。
戦闘機は敵の破壊より自己の保存を優先して二次命令に備えることを信条とし、
ミサイルは敵の破壊を唯一至上の目的としてその瞬間に賭けて生きている。
そんな彼らのやりとりが面白くておかしい。

全翼機である私が、普段は黙らせている自己診断系の母線を久しぶりに再接続して
67種類の警告信号にやっぱりうんざりする場面と、
自分の中に湧いた『声』の発生源を探す電子戦の場面が好き。
それと、「故障箇所をただのひとつも抱えておらず、すべての機能を何の問題もなく発揮できる
航空機など、この大空にはおそらく一機も存在しない。(中略)そうした【弱点】をいかに素早く見抜き、
いかに効率よく攻めるか。ほとんどの場合、そのことが勝敗の行方を決定づける。」という文章。
困るんですよ、本当に。
『E.G.コンバット』や『鉄コミュニケイション』を読み返したくなっちゃうでしょ。
空中戦のシーンはとても楽しかった。

この戦闘機は長い長い時間を高高度の空で過ごしてきて、地上の概念も存在も知らない。
空中で補給は受けられるから、戦争を続けるシステムは生きているのだけど、
全体がどうなっているかはわからない。
それでも任務に従って飛び続けるという、渋い話でした。
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