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『インシテミル』 [読書]

米澤穂信さんのミステリ小説、面白かった。
クローズドサークルを現代ものでやるのは下準備が大変だと思いました。

以下、感想メモ。ネタバレを含みますので、ご注意ください。

ぱっと見、不思議なタイトル。
正解は「(ミステリに)淫してみる」として、語呂合わせでどんな単語を当てているのか気になった。
わたしが読んだ文庫版では見つからなかったけど、
ハードカバー版の表紙には「THE INCITE MILL」と書かれているんだね。
文庫版にも書いておいてほしかった。

自分はふだんミステリを読むとき、謎解きを読んだらさらっと納得してしまうけど、
米澤穂信の本は解決編を読んだ後も残った謎について、ちょっと考えたくなる。
Day -30から Day -21の参加動機、短期雇いと並行して応募したのは淵、
夜明けに応募したのは関水、何でもするつもりだったのは西野だと思うんだが、
どれが誰の動機なのか、注意深く考察したら個人を特定できるのかな。
一人分足りないから関係ないのかな。

安東の報酬にも首をひねる。
442万4000円は、淵や須和名が受け取った報酬総額1769万6000円の4分の1。
2回目のミスはいつ発生したの? 隠し通路の中?

〈十戒〉の存在意義は、隠し通路のヒントだけ?
「七 探偵役となった者は殺人を行ってはならない」に違反している人がいるけど、
破ってもペナルティにならない(むしろボーナス発生)なら、かえって混乱させるだけでは。
たしかに「殺人を行った者は探偵役となってはならない」とは書いていないけども。
……こういうのはきっと、ミステリに造詣の深い人たちがワイワイ検討したら楽しいんだろうな。

少し気になるのは、登場人物の性格や作品としてのシリアス度にムラがあるところ。
『インシテミル』はミステリのためのミステリ小説で、メタミス的な要素もあるから、
キャラクターが薄いのも登場人物の死が軽いのも、そういうものとして納得するけど、
結城が鍵のかからない個室で恐怖の一夜を過ごすシーンは描写が細かくて深刻なのに、
途中から急に状況に冷めてくるので、その差に戸惑う。
それゆえに読後感は悪いものじゃなくて、安心して読めるというメリットもあるんだけど。
阿藤先生以下略の教えも、やるなら最後まで引っ張ってストーリーを茶化してほしかった。

須和名があそこまで危機感ゼロなのも気になる。
彼女はみんなの前で「食事は毎回、素晴らしいです」と言いながら (Day 4)、
あとから「食事は余りに粗末」と考える (Day +6) 、きっぱりと裏表のある人物だけど、
巻き込まれて被害を受ける可能性さえ一切考えていないようなのは不思議だ。

一方で、安東の行動や「空気の読めないミステリ読み」のくだりは、
古典部シリーズや小市民シリーズにも共通するテーマだと思った。
ここにいるのが小鳩常悟朗だったらどうするか、千反田えるならどうかと、うすうす考えてしまった。
Day 7で岩井が心から悔いながら、第三者的に盛り上がってしまうのも、
「空気の読めないミステリ読み」の業の深さか。
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